愛知県でメーカーを探していると、自動車部品や機械メーカーは比較的見つけやすい一方、化学・素材系の企業は社名だけでは何を作っているのか分かりにくいことがよくあります。
実際には、半導体に使われる微細材料、食品や医薬品を包むフィルム、繊維や電子材料に使われる界面活性剤など、完成品の性能を裏側で支えている企業が愛知県にも存在します。一般の消費者が社名を目にする機会は少なくても、特定分野で高い市場シェアを持っていたり、研究開発から製品化まで自社で一貫して手がけていたりする企業があるのです。
ただし、市場シェアが高いからといって、それが自分に合う会社とは限りません。化学・素材メーカーを見るときは、技術や事業の強さだけでなく、研究開発では何をするのか、生産技術ではどこまで設備に関わるのか、勤務地は本当に愛知県内なのかまで確認しておく必要があります。
この記事では、愛知県の化学・素材・半導体関連メーカーから、アドマテックス、フタムラ化学、竹本油脂の3社を取り上げ、製品・技術の強みや仕事内容、勤務地を詳しく紹介します。
この記事でわかること
- 愛知県で確認しておきたい化学・素材系メーカー
- 各社の市場シェア、収益性、働き方の数字をどう見るか
- 研究開発と生産技術では仕事内容がどう違うか
- 愛知勤務を考えるときに確認したい配属・勤務地
化学・素材メーカーは完成品から社名が見えにくい
化学・素材メーカーの特徴のひとつは、自社の名前が最終製品には出てこないことです。
スマートフォンや自動車、食品包装、衣料品を見ても、その中にどの会社の材料が使われているかは分かりません。しかし、製品の小型化、耐熱性、強度、加工性、品質などは、材料の性能に大きく左右されています。
そのため企業を見るときも、「何を作っている会社か」だけでは十分ではありません。
たとえば今回扱う3社でも、事業の性格はかなり違います。
アドマテックスは、半導体などに使われる微細な球状粒子を得意とする材料メーカーです。フタムラ化学は、包装用フィルムやセルロースフィルム、活性炭など複数の素材を扱っています。竹本油脂は、ごま油で知られる一方、実際には約3,000品目の化学品を扱うスペシャリティケミカルメーカーでもあります。
同じ「化学メーカー」とひとくくりにするより、どの市場で、どんな技術を使い、どのような仕事をしているのかまで見たほうが、企業ごとの違いが見えてきます。
研究開発と生産技術では、仕事の見え方が違う
化学・素材メーカーを探す学生にとって、研究開発は分かりやすい職種ですが、実際のものづくりでは生産技術も同じくらい重要な役割を担っています。
| 職種 | 主に扱うこと | 向いている専攻・経験の例 |
|---|---|---|
| 研究開発 | 新材料、配合、性能評価、顧客課題への対応、新製品開発 | 化学、材料、応用化学、生命、農学など |
| 生産技術 | 製造条件、設備、工程、自動化、安全、生産性の改善 | 化学工学、機械、電気・電子、制御など |
| 品質管理・品質保証 | 分析、検査、品質データ、不具合解析、顧客対応 | 化学、材料、機械、電気など |
研究開発でも、研究室の中だけで仕事が完結するとは限りません。顧客の課題を聞き、試作品を作り、工場で量産できる条件まで考える会社もあります。
一方、生産技術では化学の知識だけでなく、機械設備、電気制御、配管、工場の自動化などの知識が重要になることがあります。
つまり、化学・素材系の記事だからといって、化学専攻の学生だけが対象になるわけではありません。機械・電気系の学生でも、生産技術や設備開発から関われる企業があります。
数字は「合格ライン」ではなく比較の目安として使う
各社の数字を見る前に、比較のための目安を置いておきます。
2024年度の製造業の売上高営業利益率は5.6%です。これは経済産業省の企業活動基本調査によるもので、一定規模以上の企業を対象とした統計です。
また、厚生労働省の2025年就労条件総合調査によると、2024年の労働者1人あたりの平均年間休日総数は116.6日、年次有給休暇の平均取得日数は12.1日でした。この調査は常用労働者30人以上の民営企業を対象としています。
製造業の月間所定外労働時間は、30人以上の事業所で2024年平均14.6時間です。
ただし、これらの数字を企業の合否ラインとして使うわけではありません。
営業利益率は事業内容や会社規模によって差がありますし、企業が公表する「月平均残業時間」と統計上の「所定外労働時間」も、定義が完全に一致しているとは限りません。非上場企業では、そもそも財務情報が十分に公開されていない場合もあります。
この記事では、これらの数字を「一般的な水準と比べてどのあたりに位置するか」を見るための参考値として使い、そのうえで事業内容や職種、勤務地とあわせて企業を見ていきます。
愛知県の化学・素材系メーカー3社
ここから、アドマテックス、フタムラ化学、竹本油脂の3社を1社ずつ見ていきます。
アドマテックス|半導体材料
会社の規模・業績
- 売上高:約290億円(2026年3月期)
- 従業員数:566名
- 営業利益:約85億円(2026年3月期)
- 営業利益率:約29.4%(2026年3月期)
実力を示す主な根拠
アドマテックスは、愛知県みよし市に本社を置く化学素材メーカーです。中心製品である球状の微細シリカは、半導体封止材や電子材料に使われ、微細シリカ分野で世界シェア約70%(2024年度・富士キメラ総研調べ、同社採用情報掲載)を持ちます。一般の学生が製品名を目にする機会はほとんどありませんが、スマートフォン、自動車、データセンター向けAI半導体などの内部で使われています。トヨタ自動車発のベンチャーとして始まり、現在はトヨタ自動車、信越化学工業、豊田通商などが主要株主です。
財務面では、2026年3月期の株主資本が約418億円、総資産が約503億円で、単純計算では株主資本が総資産の約83%を占めています。営業利益率も2024〜2026年3月期で約18.9%→25.2%→29.4%と上昇を続けており、一時的な高さではありません。ただし半導体市場の影響を受けやすいため、この水準がそのまま続くとは限らない点は留意が必要です。
働き方の面では、年間休日121日、有給取得14.8日(2025年度)と参考値を上回る一方、月平均残業は31.0時間です。市場地位や収益力の強さと、残業の少なさは別の評価軸として見ておいたほうがよい企業です。
主な理系職と愛知拠点
募集職種には研究開発だけでなく、生産技術、工場企画、品質保証、IT、生産管理などがあり、化学・材料系だけでなく機械・電気系の学生にも接点があります。本社・テクニカルセンターとトヨタ事業所は愛知県みよし市ですが、岐阜県土岐市にも事業所があるため、希望する職種がどの拠点に配属される可能性があるのかまで確認しておきたいところです。
フタムラ化学|フィルム・セルロース素材
会社の規模・業績
- 売上高:単体934億円/連結1,154億円(2026年3月期)
- 従業員数:1,408名(単体、2026年3月末時点)
- 営業利益:非公表(利益率のみ公表)
- 営業利益率:約7.1%(2026年3月期)
実力を示す主な根拠
フタムラ化学は名古屋市に本社を置く非上場の素材メーカーです。社名だけでは規模が分かりにくいですが、単体売上934億円・連結1,154億円、単体従業員数1,408人と、中小メーカーというより大型の非上場企業にあたります。セルロースフィルム世界No.1、無延伸ポリプロピレンフィルム国内No.1など(同社公表)、包装用フィルム・セルロースフィルム・活性炭・不織布と複数分野で強い製品を持っています。
アドマテックスのような突出した利益率ではありませんが、営業利益率は2024〜2026年3月期で約6.4%→6.8%→7.1%と少しずつ上昇しており、製造業参考値5.6%を上回る水準を安定して確保しています。平均勤続年数18.2年、月平均残業5.7時間、有給取得15.6日、年間休日120日と、働き方の公開数字も良好です。
主な理系職と愛知拠点
技術職には研究開発、製造技術、生産技術、生産管理、品質管理があり、化学系だけでなく機械・電気系の学生にも仕事があります。名古屋工場・田原開発センターが愛知県内の主な拠点ですが、技術・製造系の勤務地は茨城、岐阜、広島、神奈川など全国に広がっています。本社が愛知にあることと、愛知勤務が保証されることは別の話なので、配属候補地を確認しておきたい企業です。
竹本油脂|界面活性剤・スペシャリティケミカル
会社の規模・注目データ
- 売上高:1,087億円(2025年12月期、前期1,170億円から減少)
- 従業員数:678名
- 化学品の品目数:約3,000品目、世界47か国へ輸出(2023年実績)
- 直接取引法人数:2,383社(2023年実績)
実力を示す主な根拠
竹本油脂と聞くと、ごま油の「マルホン」を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、実態は界面活性剤やスペシャリティケミカルズも手がける化学メーカーで、繊維、電子・情報、土木・建築、農薬、合成樹脂など幅広い分野に製品を供給しています。約3,000品目を47か国へ輸出し、直接取引法人も2,383社あることから、汎用品を大量生産するのではなく、用途や顧客に合わせて多品種を開発する会社であることが分かります。繊維処理剤ではトップシェアを持つとしています(同社公表、数値は非公開)。
平均勤続年数16.3年、月平均残業8.3時間、有給取得14.2日、年間休日122日と、働き方の数字は参考値を上回ります。一方で、売上高は2024年の1,170億円から2025年は1,087億円へ減少しており、1,000億円規模は維持しているものの、直近まで右肩上がりで成長していると見るのは適切ではありません。
主な理系職と愛知拠点
化学品の研究開発総合職は理系修士卒を対象とし、当初勤務地は蒲郡本社です。顧客の課題や要望を理解したうえで、研究、試作提案、試験、評価、製品化まで幅広く担当します。一方、生産技術総合職は理系修士だけでなく理系学部卒も対象で、設備選定、配管・配線の配置設計、電気制御、設備導入・立ち上げなどを担い、当初勤務地は蒲郡市の大島工場です。研究開発・生産技術とも当初勤務地は愛知県蒲郡市ですが、経験を積んだ後は東京、大阪、福岡、海外勤務の可能性があります。「最初に愛知で働ける」ことと「将来も愛知勤務が続く」ことは、分けて考えておく必要があります。
価格カルテルの排除措置命令について(応募前に知っておきたい事実)
竹本油脂については、技術・働き方とは別に確認しておきたい事実があります。
2025年5月、ごま油や食品ごまの販売価格を巡る価格カルテルについて、公正取引委員会から独占禁止法に基づく排除措置命令を受けています。
竹本油脂は課徴金減免申請を行っており、一部の違反行為では減免制度により課徴金が免除されました。また、その他についても算定された課徴金額が100万円未満だったため、竹本油脂に対する課徴金納付命令は出されていません。
同社はその後、再発防止と法令遵守の強化を公表しています。
この一件だけで研究開発力や就職先としての価値を否定する必要はありません。ただし、良い数字だけを見て企業を判断するのではなく、企業全体で起きた出来事も企業研究の材料に含める、という意味で、応募前に知っておきたい情報です。
3社を比べると、企業の性格がかなり違って見える
ここまでの3社を並べると、同じ化学・素材系でも強みが違うことが分かります。
アドマテックスは、半導体向け微細材料で世界シェア約70%、営業利益率約29%と数字の強さが際立つ会社です。研究開発・生産技術どちらの募集もあり、材料そのものの強さを追求したい人に向いています。愛知に主要拠点がありますが、岐阜配属の可能性も確認しておきたいところです。
フタムラ化学は、フィルム・セルロース・活性炭など複数分野で強みを持つ1,000億円規模の会社で、月平均残業5.7時間という働き方の数字も含めたバランスの良さが特徴です。研究開発に加えて機械・電気系の生産技術も厚く、設備・電気系に関わりたい人にも向いています。ただし技術系の勤務地は愛知に限らず全国に広がっています。
竹本油脂は、界面活性剤やスペシャリティケミカルを中心に約3,000品目を47か国へ展開する会社です。研究開発は顧客の課題から製品化まで関われる点が特徴で、生産技術は設備・電気制御が中心になります。研究・生産技術とも配属は蒲郡からスタートしますが、将来的な異動がある点は押さえておきたいところです。
どの一社が「最も優良」と決める必要はありません。
研究内容との近さを重視するのか、技術の市場競争力を見るのか、愛知勤務を優先するのかによって、魅力的に見える会社は変わってきます。
小規模でも見ておきたい中京化成工業
主要3社以外では、中京化成工業も確認しておきたい企業です。
中京化成工業|潤滑剤・金属加工油
会社の規模・注目データ
- 従業員数:77名
- 製品数:3,600点超
- 選定歴:地域未来牽引企業、2025年度「はばたく中小企業・小規模事業者300社」(DX分野)
- 開発期間短縮:材料インフォマティクス導入により金属加工油の開発期間を6か月→2か月に短縮(中小企業庁選定資料より)
実力を示す主な根拠
愛知県に本社を置き、潤滑剤、金属加工油、離型剤などを開発・製造しています。従業員数は77名で、今回の主要3社と比べるとかなり小規模ですが、3,600を超える製品を展開し、顧客ごとの課題に合わせたカスタム開発を行っています。中小企業庁の選定資料では、金属加工油の開発に材料インフォマティクスを導入し、開発期間を6か月から2か月へ短縮した取り組みが紹介されており、規模の小ささだけでは測れない技術力がうかがえます。主要3社ほど財務や働き方の公開情報が多いわけではありませんが、情報が少ないこと自体を悪い評価にする必要はなく、興味を持った場合は説明会や採用担当者への確認を増やしていくとよいでしょう。
主な理系職と愛知拠点
採用では、研究開発、試験分析、技術営業、生産技術、製造などの理系総合職があります。社員紹介では学部卒から研究職へ進んだ社員も紹介されており、大手メーカーで研究職の応募条件が修士以上に限定されることがあるのに対し、実際にどの職種へ入れるかを見ると候補が変わってくる企業のひとつです。本社は愛知県内にあります。
上場・大型企業まで視野を広げるならMARUWAと愛知製鋼もある
ここまで紹介した企業以外にも、素材・材料の視点から見ておきたい愛知県企業があります。
セラミック材料や電子部品を手がけるMARUWAは、【愛知県の隠れ優良企業・メーカー】でも詳しく紹介しています。また、特殊鋼や機能材料に強みを持つ愛知製鋼など、規模の大きいメーカーを比較したい場合は、【愛知県の上場・大型BtoBメーカー9社】も参考になります。
中堅・非上場企業と大型・上場企業を両方見たうえで、自分の企業選びの幅を考えるとよいでしょう。
応募前は、仕事内容と勤務地をセットで確認する
化学・素材メーカーを見つけた後は、「研究開発職がある」という情報だけで応募先を決めないほうが安全です。ここまで見てきた3社でも、研究開発と生産技術の担当範囲はそれぞれ違っていました。
企業研究では、少なくとも次の点を確認しておきたいところです。
- 自分の専攻から応募できる職種は何か
- 研究開発ではどこからどこまで担当するのか
- 生産技術では設備・電気・制御まで扱うのか
- 初期配属地はどこか
- 将来的な転勤や海外勤務はあるか
- 研究職が修士限定か、学部卒にも募集があるか
会社の強さを調べることと、自分がそこでどんな仕事をするのかを確認することは別物です。
世界シェアが高くても、自分が希望する仕事ができるとは限りません。残業が少なくても、自分の研究分野と仕事内容が合うとは限りません。
企業を見つけた後は、理系の企業研究を使って、仕事内容、配属、勤務地、働き方を自分で確認していく段階へ進みましょう。
そのうえで条件を整理したい場合は、理系の企業選びの基準で自分の判断軸を決め、複数社まで候補が絞れたら理系の企業比較のやり方で条件をそろえて比べてみてください。
自分だけでは候補が増えない場合
地域の中堅・非上場メーカーは、大手求人サイトで検索するだけでは見つけにくいことがあります。
この記事や愛知県の隠れ優良企業を見ても応募候補が足りない場合は、愛知県で企業を探す就活サービスで、大学キャリアセンター、地域サービス、理系・メーカーに強い就活サービスを使って候補を広げる方法を整理しています。
すでに十分な候補が見つかっているなら、無理にサービスを使う必要はありません。まずは見つけた企業を自分で調べ、比較することを優先すれば十分です。
次に読むべき関連記事
愛知県の隠れ優良企業
愛知県のメーカーから、収益性や技術力、仕事内容、勤務地を確認して選んだ8社を紹介しています。化学・素材以外の分野にも候補を広げたい場合に参考になります。
愛知の上場・大型BtoB企業
MARUWAや愛知製鋼など、中堅・非上場企業とは別枠で確認したい大型・上場の技術企業を扱います。
理系の企業研究
気になる企業を見つけた後に、事業、仕事内容、配属、勤務地、働き方などをどの順番で確認するかを整理しています。
理系の企業選びの基準
企業の数字を集めた後、「自分は何を優先して企業を選ぶのか」を整理したいときに使います。
理系の企業比較のやり方
複数の候補企業が残った段階で、条件をそろえて比較する方法を解説しています。知名度や印象だけで決めず、自分の判断軸で比較したいときに進んでください。

コメント